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その答え本にあり

歴史から何を学び、どのように活用するのか

「温故知新」と孔子はいった。「故」とは「歴史」のことで、「温」とは「復習する」ことらしい。つまり、歴史を学ぶことで新しい知識を得るという意味である。

その意味は分かるが、具体的にどういうことなのかは、学生の時分は分からなかった。
だが、最近その本質的な意味が少しずつ分かるようになってきた。「過去にも同じような事例が何回かあったな」と、ニュースなどを観ながら思い返すことが多くなったからだ。

おそらく、この故事成語の根底にある発想は、「歴史は繰り返す」ということであり、いにしえの聖人は「歴史」学ぶことで、将来を予測し、現実の政治などの参考となることを教えているのではないだろうか。

そこで、歴史から何を学び、どのように活用すべきかを学ぶために、この本を読んでみました。

 

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『歴史からの発想』
著者 堺屋太一
通産省官僚(経済企画庁長官、内閣特別顧問など歴任)。作家(団塊の世代」など名付けの親でもある)



【参考になった点】

■戦国時代は超高度成長期だった
日本史において16世紀は群雄割拠の乱世といったイメージが強いが、技術進歩と経済の超高度成長期であったことが歴史からみる本である。なぜなら、技術革新や経済の発展がなければ下克上は起こらなかったからである。

戦国時代の発端は「応仁の乱(1467)」である。当時の中央政権であった足利幕府は、将軍位継承争いによって大戦争へ突入する。結果、統治機構は倒壊し、足利幕府の統治が終焉することになる。

これによって伝統や家格といった価値が低下し、時代は自由競争社会へ転換する。
この頃、明や高麗から新技術が伝わり農耕具の改良、耕作方法の改善が促され、農業が発展する。この新技術の採用と開発事業に取り組んだのは、各地の豪族であった。

豪族は次第に支配力を高め、富を蓄え経済的基盤を作り上げた。さらに中国から伝わった技術によって鉱工業が発達。鉄製品の急速な普及が始まり、ごく限られた階級だけの所有物であった刀槍が農民の手にも行き渡るようになる。

このようにして下克上の基盤が出来上がる。(のちに天下を争う毛利、織田、武田、上杉らは、いずれも鉱業収入から大きな利益を得て、軍事力を得たとされる。)

つまり、旧社会体制が崩壊し、自由競争が始まり、そして文明、経済の超高度成長を経て、戦国時代へ突入したというのが歴史から見た本流である。

■歴史からみる「勝てる組織」とは

◉勝てるリーダー織田信長
信長が行った主な政策
・宗教的権威、伝統的価値の排除
能力主義的人材登用
楽市楽座の奨励
兵農分離

上記にとおり、信長はこれまでの既成概念にとらわれない政策をおこなったわけだが、すべてに共通することは「唯目的的評価」を徹底したことである。「天下布武」というスローガンのもと、目的達成に有利なものはためらうことなく取り入れ、目的に沿わないものは全て破壊した。その徹底ぶりは凄まじく、日本人の心情的伝統や常識をことごとく裏切り、この人物が本当に日本人だったのかと疑われるほどである。だが、比叡山での僧俗男女の皆殺しなど、行き過ぎた行動がゆえに、明智光秀のような教養人のある家臣からの謀反を引き起こした。
しかし、信長はゆるぎなく実行し徹底して行ったゆえに、最大領土を拡げ、信長軍団は「勝てる組織」となった。

◉世界帝国を築いたジンギス・カン
ジンギスカンが行った主な政策
・大量報復戦略
・秘密警察
・宗教の自由

これらは世界史上、類を見ない画期的三発想といわれる。

大量報復戦略とは、統治した都市で反乱が起きた場合、何十万といわれる蒙古の精鋭騎馬隊が馳せつけ、その都市すべての人々を残虐してしまう統治手段である。これを知った他の都市は恐れて反乱を起こさないようになる。

また、秘密警察とは、侵略先の事前調査を徹底しておこなう精鋭で従順な使者のことである。国外に限らず、国内にも配置してモンゴル帝国の統治手段とした。そして宗教においても自由を認め、統治手段とした。(他にも画期的な軍事戦術などあるが割愛)

このジンギスカンという人物も信長と同じように、ゆるぎない強い信念のもと、徹底して行ったがゆえに、モンゴル帝国という世界帝国を築きあげたといえる。


【まとめ】

冒頭において「歴史は繰り返される」と述べた。しかし、時代は変わっていくものだ。
技術の進歩、資源の状況、自然環境など過去と現在、全く同じ状況が繰り返されることはあり得ない。だから「歴史は繰り返さない」という見方もある。

だが、歴史の要素である「人間の本性」は、さほど変わることはない。相似た事件に対応する人間の思考や行動には深い共通性があるからだ。

「歴史の父」ツキディデスは言った「今後も、人間性の赴くところ、異なる状況の中でも相似た事件が起こるであろう」と。

つまり「歴史」とは、「人間学的事例集」であり、その不変なる人間性の観察こそ「歴史は繰り返す」ということの本質なのかもしれない。そのことを踏まえた上で、歴史を学ぶ利点は、何千年という人類の歴史をスポット的な事象によって見るのではなく、社会や政治の動向を10年、100年といった「巨視的な流れ」として見ることで、世の本流(ストリームライン)を知ることができる、ということだろう。その本流に描かれるものは、万古不変な人間社会の「真実」と「真理」である。それは、これから起こるであろう出来事の結末を予測する手立てとなり、画期的な発想を生む原点にも成り得るだろう。

 

〈追記〉そういえば、ジョブスって信長タイプのような。。